URBAN FARMERS CLUB

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未来を耕そう

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私的 街の農事暦 〜蟷螂生(かまきりしょうず)と恵みの雨 

これを書いている時は芒種の初候、七十二候で言うと蟷螂生(かまきりしょうず)のあたり。カマキリがあのふわりとした薄茶色い卵から孵化する頃になりました。

カマキリは害虫を捕まえてくれる益虫だと知っているけど、苦手です・・・。小さい時に祖父の田んぼで踏んづけたトラウマがあるのです。あっと思った時はもう遅く、足裏の感触、殺生をしたという怖さと悲しさが綯い交ぜになって、まだ幼かった私はサイレンの様な大声で泣き始めてしまいました。急変に驚いた祖父は足元の無残な亡骸をさっと田んぼに放り、もう大丈夫やと慰めてくれました。なかなか泣き止めず、畦道でぐずっている私の手を引いてくれた祖父の優しいしゃがれ声を、今でもありありと思い出します。カマキリよ、本当にごめんなさい。

私の遥か昔の記憶通り、カマキリの頃は田植えの季節です。UFCで伺っている鴨川の天水棚田の田植えにも参加することができました。暑かったけど素足で入る泥の柔らかい感触は、気持ちよかった。一足一足新しい泥を踏み込んで腰を落とし十数人が横一列、真緑の苗を手で泥に挿していきます。腰を伸ばして振り返ると、苗が田んぼ一面に広がって小さくひらひらと手を降っているよう。体力仕事なんだけど全身が緩んで、ホッとできた1日でした。カマキリにも会わなくてよかった。

同じ頃、場所は変わって我が家の小さな畑は、梅雨からの本格的な夏に向かって手入れの真っ最中。トマトやキュウリ、インゲンを支柱で支えたり、芽かきしたり、じゃがいもの花が咲きそうになってきたら土寄せをして、カブの葉にいつの間にか穴を開けてる青虫を鉢から放り出し、ゴーヤのグリーンカーテンの準備をします。その間に虫さされに効くハーブチンキを、今年はドクダミたっぷりで作ります。梅仕事も始まって、夏に欠かせない梅シロップと、冬を乗り切るための白梅干し。今年は青梅がたくさん手に入るとのことで梅肉エキスも。夏至近く日が長い時期とはいえ、夏の準備と手入れであっという間に1日が終わっていきます。

身体中に汗が滲み上がってくるような蒸し暑さの中、もう5月のような気持ちいい癒しの風も吹かず、夏の収穫にはまだ少し早くて端境期のため楽しみは少なめです。暑さと湿気に慣れないうちは、あぁ疲れたなぁと漏らしてしまいます。どっちつかずのどんよりした曇天を見上げながら、いっそ降ってしまえばいいのにと雨乞いの気分に。降れば一気に気温が下がって涼しくなるはず。そして誰に責められるわけでもないのに、正々堂々と手入れをお休みにできる。水瓶に雨は溜まるし、水やりも自然がしてくれて助かります。長い間、電車通勤に厄介だった6月の雨は、ベランダの畑と共に暮らすようになって、恵みの雨に変わっていきました。

そして楽しみ少なめと思えるこの頃の大きな喜びは、雨上がりの植物の育ち様。たっぷりの水分で、あっという間にひと回りもふた回りも大きくなっていて目を見張ります。丈もぐっと伸び、葉やツルの先まで水分が満ちている。1人で感嘆の声を上げながら、雨に濡れたプランターを見て回ります。植物と共に伸びた雑草も気になるけれど、雨休憩で充足した私の心には余裕があって、小さな畑まるごとのみずみずしい生気を楽しむことができるのです。